評価制度を作ろうとすると、まず評価項目や評価シートの形を考えたくなることがあります。
もちろん、項目やシートは必要です。けれども、実際に制度づくりに関わっていると、評価項目を作り始める前に整理しておくことが、その後の運用に大きく影響すると感じます。
「9割決まる」と言うと少し大げさに聞こえるかもしれません。
ただ、作る前の前提が揃っていないまま制度を作ると、運用が始まってから、評価者ごとの解釈の違いや、社員への説明のしづらさが出てきます。
このページでは、評価制度を作る前に整理しておきたいことを、次の3つの視点でお伝えします。
- 評価項目の前に、会社としての前提を揃える
- 教科書通りではなく、自社に合った制度にする
- 等級制度を、社内の認識を揃える土台にする
1.評価項目の前に、会社としての前提を揃える
まず最初に考えておきたいのは、評価制度を作る前提です。
評価制度を作るときには、評価項目を決め、その定義を言葉にして、上司と部下で共有していきます。
ここを曖昧にしたまま運用に入ると、評価面談の場で、
「普通はこうするものではないですか」
「人として、これは当然ではないですか」
というように、それぞれの“当たり前”がぶつかることがあります。
自分の当たり前と、人の当たり前は違う
頭では、多くの方が分かっていることだと思います。
人によって考え方は違う。
受け止め方も違う。
仕事の進め方にも違いがある。
頭では分かっていても、実際に評価の場面でそれを意識し続けるのは簡単ではありません。
特に評価では、自分が当然だと思っている行動を、相手にも同じように求めてしまうことがあります。
一方で、会社が評価において見ているのは、その人の性格や人柄ではなく、具体的な行動です。
人を評価するのではなく、行動を評価する。ここを忘れてしまうと、評価はどうしても印象や個人の価値観に引っ張られやすくなります。
だからこそ、評価項目を作る前に、会社として何を見て評価するのか、どのような行動を評価したいのかを、あらかじめ言葉にしておく必要があります。
目的が曖昧なままでは、評価期間が活きない
評価制度は、社員の行動や成長を会社の目指す方向に近づけるための仕組みです。
そうであれば、評価項目は単なるチェック項目ではなく、会社が目指す姿につながっている必要があります。
評価期間を過ごしたあとに、「結局、何を見ていたのか」「何を伸ばしたかったのか」が曖昧なままでは、せっかくの評価期間が振り返りや成長につながりにくくなります。
評価制度は、項目づくりから始めるのではなく、会社の目的やビジョンを確認するところから始める。
ここが、最初に押さえておきたい入口だと考えています。
2.教科書通りではなく、自社に合った制度にする
次に大切なのは、評価制度の作り方です。
書籍やセミナーで学んだ通りに、きれいに制度を作ろうとされる会社もあります。原則を学ぶことは大切ですし、基本の型を知ることも必要です。
ただ、実際には会社ごとに状況が違います。
社員数、創業年数、組織の成熟度、経営者の考え方、これまでの処遇の決め方。
どれも会社によって異なります。
使いやすい制度と、自社に合った制度は違う
ここで気をつけたいのは、単に「使いやすい制度」と「自社に合った制度」は違うということです。
社長にとって使いやすいだけの制度では、評価の方向性がぶれてしまうことがあります。
一方で、教科書通りに作りすぎても、現場に合わず、難しくて続かないことがあります。
評価制度は法律で形が決まっているものではありません。
洋服の袖丈を詰めたり、裾上げをして動きやすくするように、全体の型を崩さない範囲で、自社に合わせて整えていくことは必要です。
たとえば、管理職層や役割分担がまだ細かく分かれていない段階で、最初から複雑な等級や評価項目を作る必要があるとは限りません。
大切なのは、見た目が整った制度を作ることではなく、実際に運用し続けられる制度にすることです。
完璧ではなく、6割から始める
評価制度は、作ったその年から自社にぴったり合うものになるわけではありません。
運用してみて初めて分かることがあります。
この評価項目は伝わりにくい。
この等級の基準は少し曖昧だった。
このスケジュールでは面談の時間が足りない。
そうしたことは、どれだけ事前に考えても、最後は実際に動かしてみなければ見えてこない部分があります。
だからこそ、私は評価制度は6割程度の完成度で運用を始め、やりながら少しずつ制度の精度を高めていく考え方が現実的だと思っています。
ただし、6割でよいというのは、何となく作ってよいという意味ではありません。
外してはいけない軸があります。
それは、自社の社風や組織風土に合っているか。
そして、経営理念やビジョン、ミッションにつながっているかどうかです。
ここまで読んで、「理念やビジョンにつながる制度が大切なのは分かるけれど、それをどこから具体化すればよいのか」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
そのときに、ぜひ見ていただきたいのが等級制度です。
3.等級制度を、社内の認識を揃える土台にする
人事制度というと、評価制度と賃金制度を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ただ、その前に考えておきたいのが等級制度です。
等級制度は、社員に期待する役割やレベルを整理するものです。
評価制度の前提になる、人事制度の骨子とも言えます。
評価の前に、期待するレベルを明確にする
評価をするためには、そもそも「どのレベルの社員に、何を期待するのか」が明確になっている必要があります。
たとえば、一般職に求めることと、中堅職に求めることは違います。
管理職に求めることは、さらに違います。
この違いが曖昧なまま評価をすると、昇格や評価の判断が、どうしても職位や給与額、これまでの慣習に引っ張られやすくなります。
本来は3等級相当の役割なのに、給与や職位との関係で4等級として扱っている。
こうしたことは、実務上まったくないとは言えません。
だからこそ、等級ごとの役割や期待水準を言葉にしておくことが大切です。
等級制度は、成長と報酬をつなぐ
等級制度は、単に昇格を決めるためのものではありません。
社員が今どの段階にいて、次にどのような力を身につければよいのかを示すものでもあります。
評価制度は、その等級に照らして、現在地と理想の姿とのギャップを見るための仕組みです。
そして報酬制度は、その等級や役割に応じて処遇を決める仕組みです。
つまり、等級制度・評価制度・賃金制度は、それぞれ別々に存在しているのではなく、つながっています。
等級制度が曖昧なまま評価制度を作ると、評価の基準も曖昧になります。
反対に、等級制度が整理されていると、評価も説明しやすくなり、社員の成長や人材育成にもつなげやすくなります。
等級制度は、社内の認識を揃えるための大切なツールです。
評価制度を作る前には、評価項目やシートの形を考える前に、整理しておきたいことがあります。
特に大切なのは、次の3つです。
- 評価項目の前に、会社としての前提を揃える
- 教科書通りではなく、自社に合った制度にする
- 等級制度を、社内の認識を揃える土台にする
評価制度は、作り方の手順だけでうまくいくものではありません。
どのような会社を目指すのか。
どのような社員に育ってほしいのか。
そのために、どのような役割や行動を評価するのか。
ここが整理されていて初めて、評価項目や評価シートが意味を持ちます。
「うちもそろそろ評価制度が必要かもしれない」と感じたときほど、すぐに項目づくりに入るのではなく、まずは作る前の前提を確認することが大切です。
制度は、完成形を最初から作り上げるものではありません。
自社に合う形を考え、運用しながら少しずつ育てていくものです。
その出発点を間違えないことが、評価制度を機能させる大きな分かれ道になると感じています。



