現在の評価制度が現状と合わなくなってきたので、見直しをしたい。
そうしたご相談をいただく機会が増えています。
このようなお話を伺うと、どうしても「何が原因なのか」を一つに絞って考えたくなります。評価項目が悪いのか、面談が足りないのか、評価者の理解が足りないのか。もちろん、それぞれに課題がある場合もあります。
ただ、実際には原因が一つだけということは少ないものです。いくつかのズレが重なり、その結果として評価制度が形だけになってしまう。そういうケースが多いと感じています。
このページでは、評価制度が形骸化する会社に共通するズレについて、次の3つの視点で整理してお伝えします。
- 目的が曖昧なまま制度を作ってしまう、設計時のズレ
- 制度を回すことが目的になってしまう、運用時のズレ
- 評価する側・される側の間にある、人のズレ
1.目的が曖昧なまま制度を作ってしまう、設計時のズレ
まず見ておきたいのは、制度を作る段階でのズレです。
評価制度を作る目的や、会社が目指す方向が曖昧なまま、評価項目や評価シートから作り始めてしまうことがあります。
もちろん、評価項目やシートは必要です。けれども、目的がはっきりしないまま作り始めると、知らず知らずのうちに、会社が本来目指している方向とずれた項目を作ってしまうことがあります。
評価項目の意味が伝わらなくなる
そのまま運用を始めると、評価項目の曖昧さに加えて、言葉の受け止め方の違いも出てきます。
同じ言葉を使っていても、上司と部下でイメージしている行動が違う。
評価者同士でも、見ているポイントが少しずつ違う。
こうしたことは、実際の現場ではよく起こります。
その結果、本来は具体的な行動を見て評価するはずが、印象や個人の価値観に引っ張られやすくなります。そうなると、評価制度に対する信頼は少しずつ下がっていきます。
これでは、上司にとっても部下にとっても、納得しやすい評価にはなりにくいものです。
会社の目指す方向を評価項目に落とし込む
社員に何を求めているのか。
どこを見て評価するのか。
それを伝える前提として、会社がどこを目指しているのかを共有することが大切です。
評価制度は、会社のビジョンや目的を、日々の行動に落とし込むための仕組みでもあります。だからこそ、目指す方向を評価項目に反映させることが大切になります。
制度設計の段階で、できる限り言葉にしておく。
曖昧なまま始めない。
これだけでも、運用に入ってからのズレは小さくなります。
2.制度を回すことが目的になってしまう、運用時のズレ
次に見ておきたいのは、運用のズレです。
評価制度がうまくいっていないと言っても、制度そのものが止まっているとは限りません。評価シートは配付され、評価も行われ、面談も実施されている。スケジュール上は、きちんと回っているように見えることもあります。
ただ、そこで点数をつけることや、期限までに終えることだけが目的になってしまうと、制度は少しずつ形だけになっていきます。
「運用している」と「機能している」は違う
制度は作ってからが本番です。
このことは、多くの方が理解されています。
それでも、実際には目の前の制度設計や評価業務に追われて、制度が完成した時点で一段落したように感じてしまうことがあります。それ自体は無理のないことだと思います。
ただ、評価制度は、評価期間を通じて社員の行動を見て、振り返り、次の成長につなげるためのものです。
評価シートを回収すること。
点数をつけること。
処遇を決めること。
これらは必要な手続きですが、それだけでは制度が機能しているとは言えません。
現場になじませるには時間がかかる
一番の壁は、現場から聞こえてくる「時間がない」という声です。
日常の面談まで求めるのは、管理職には荷が重い。
現場が忙しく、フィードバックの時間を十分に取れない。
こうした声を聞くことは少なくありません。
本来であれば、制度を作る前に「理想の姿」を明確にし、そのためにどのような行動や対話が必要なのかを言葉にしておくとよいと思います。
ただ、実際には運用を始めてから初めて見えてくることもあります。やってみないと分からないことがある、ということです。
そのうえで、運用の精度を上げるには、評価制度のやり方を少しずつ習慣にしていく必要があります。
まずはやってみる。
振り返る。
必要なところを直す。
そして、やり続ける。
この積み重ねが、運用のズレを小さくしていきます。
このページを読んでいる方の中には、「社員が納得する人事評価制度を作らなければ」と考えている方もいらっしゃると思います。
また、「制度はきちんと作ったつもりなのに、ちゃんと説明してスタートしたのに、なぜうまくいかないのか」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
そのようなときに押さえておきたいのは、制度がうまく作れているからといって、形骸化しないとは限らないということです。
そこには、仕組みだけでは解決しにくい“人のズレ”が関係しています。
3.評価する側・される側の間にある、人のズレ
評価制度を作りたいというご相談では、「公平で納得性のある制度にしたい」とおっしゃることが多いです。
もちろん、そこは目指したいところです。
ただ、誰にとっても完全に公平な評価ができるかというと、それは難しいと感じています。
公平性だけを追いかけても納得にはつながらない
評価制度における公平さとは、あらかじめ何を見て評価するのか、どのように判断するのか、処遇にどう反映されるのかが説明されていることだと思っています。
一方で、評価そのものについては、人が人を見る以上、どうしてもズレが生じます。
評価者研修を行うこと自体は大切です。
ただ、多くの会社で毎年評価者研修が行われていることからも分かるように、評価者間のズレや評価者エラーをゼロにすることは簡単ではありません。
なぜなら、人と人は違うからです。
価値観も、経験も、見ている景色も違います。
だからこそ、無意識の価値観で評価するのではなく、評価軸に沿って意識して評価することが必要になります。
伝えるではなく、伝わるように伝える
それでも、評価する側とされる側の間にギャップは残ります。
そこからスタートすることが大切です。
評価者と被評価者の間にズレがあることを、すぐに妥協やすり合わせで片づけるのではなく、何のためにこの評価項目があるのか、会社はどのような行動を求めているのかを、対話の中で確認していく必要があります。
評価制度は、単に点数をつけるためのものではありません。
会社の目指す方向に向かって、社員の行動や成長を後押しするためのものです。
だからこそ、評価面談では、評価結果を伝えるだけでは足りません。
伝えるのではなく、伝わるように伝える。
ここを意識できるかどうかで、制度の受け止められ方は変わります。
面談は技術ですから、回数を重ねれば、少しずつ上達します。
ただ、その前提として、評価する側もされる側も「何のために評価するのか」を共有していることが大切です。
ここまで、評価制度が形骸化する会社に共通するズレを、次の3つの視点で見てきました。
- 目的が曖昧なまま制度を作ってしまう、設計時のズレ
- 制度を回すことが目的になってしまう、運用時のズレ
- 評価する側・される側の間にある、人のズレ
ただ、実際の現場では、この3つが別々に起きているとは限りません。
設計時の目的が曖昧だったために、運用してから評価項目の意味が伝わりにくくなる。
運用の中で十分な対話ができないために、評価する側とされる側のズレが大きくなる。
評価者の価値観に引っ張られることで、制度そのものへの信頼が下がっていく。
このように、ズレは一つずつ独立して起きるというより、重なり合いながら評価制度を形だけのものにしていきます。
評価制度を見直すとき、すぐに評価項目を変える、面談回数を増やす、評価者研修を行う、といった対応に向かうことがあります。もちろん、それぞれ必要な場合もあります。
ただ、その前に、どこにズレがあるのかを一度整理することが大切です。
評価制度は、作って終わりではありません。
また、評価シートだけで機能するものでもありません。
会社の目指す方向とつながっているか。
現場で運用し続けられる形になっているか。
評価する側・される側の間で、目的が共有されているか。
この3つを見直すことで、形だけになっていた制度が、もう一度、自社に合った仕組みとして動き始める可能性があります。
評価制度について考えるとき、評価項目、面談、評価者研修、賃金とのつながりなど、どうしても個別の課題に目が向きやすくなります。
もちろん、一つひとつの見直しは必要です。
ただ、それぞれの課題は別々に存在しているのではなく、設計・運用・人の関係性の中でつながっています。
評価制度がうまく機能していないと感じるときほど、制度の一部だけを見るのではなく、全体のつながりを見直すことが必要です。
その整理ができると、何から手をつければよいのかが見えやすくなります。
そして、それこそが、形骸化した制度を立て直す第一歩になると考えています。



