1.ルールの言語化
次世代に引き継ごうと考える社長からは、
●服務規律や労働時間など、労務管理に関わる部分のリスクを、できるだけ取り払っておきたい。
●賃金を決めるのは引き継いだばかりでは決めるのは難しい。
●自分が決めたルールを論理的に次世代にも、社員にも教えられない。
こんな危惧から、自分が社長のうちに可視化しておきたい。と、就業規則の作成や人事評価制度の作成の依頼をいただきます。
後継社長からは
●あいまいさをできるだけ排除して、簡単に決められる人事制度が作りたい。
こういう要望の依頼が多いです。
どちらもよくわかりますが、忘れてはいけないのは、就業規則や人事制度も仕組みでしかなく、それを扱うのは人だということです。どんなに優れた仕組みを作っても、使いこなせなければ意味がありません。
作ることに焦点をあてるのではなく、現場で使いやすい、社員にわかりやすい、こういうことを意識して作成しましょう。そうすると、完璧さや完全に拘りすぎて使わないまま机の中に、ということになってしまわず、運用することができます。
ルールを作る時は、会社のビジョンとの整合性を忘れないようにしましょう。
社員に自立してほしいと社長が願うとき、社員が自主的に判断する拠り所となるのがビジョンです。ビジョンと整合性がとれていないと、いつまでも社長の手元からルールを手放すことができません。
2.人事制度のルール化
会社のルールの最も根幹となるのが、人事制度です。ここでは、人事制度の作成からルール作りのポイントを見ていきます。
人事制度がない会社でも、昇給や賞与は支給しています。まずは、今支給している方法をいったん可視化しましょう。見直しをするなら、現状の支給方法をいったん可視化した後に見直しましょう。
社員は変化を嫌がります。社員にとってどんなに良くなる方法を作ると言っても、社員は不安です。現在「社員に説明できない」ということが一番の問題で、社員から大きな不満の声が上がったり、緊急性の高い問題がなければ、なおさらです。
現状を伝えないまま新しい制度を導入するのは、不安や反発を招きます。1歩1歩進んでいきましょう。
1.人事制度の作り方
●人事制度を作る目的を明文化しておく
●組織図を作る(誰が上司で誰が部下か)
●評価制度を作る(シートは何枚必要か?評価項目の選定)
●賃金制度を作る
●キャリアパス制度を作る(勤続何年程度でどうなってほしいのかのデザインを描く
2.評価項目
もっとも重要で、かつ社長が頭を悩ませるのが評価項目の言語化です。
評価項目については、能力をもっているかどうかではなく、実際に出来ているか、出来ていないかという、行動レベルで判断する表現をしましょう-(行動評価項目)
会社の数字にも興味を持ってほしいという要望をよく社長からお聞きします。具体的に部下指導するときは、業績向上につながる行動ができているか、できていないかを指導しますが、その結果である成果についても評価項目として設定しましょう-(成果目標項目)
この成果目標項目は、行動評価項目をやりきれば、比例して達成できる項目として数字で設定します。数字には主観が入りませんから、行動評価項目をやりきれば成果の数字が上がる、やりきらなければ数字は上がらない、という相関関係になります。
日々の部下指導では、成果目標項目は指導対象外です。
成果目標項目以外は、数字だけで評価する(定量評価)ことは、避けたいところです。
数字だけを評価する制度にすると、どうしても結果だけを追いかけることになります。
結果を出せる社員は、結果だけに気持ちがいって、それ以上の進化や成長をしようとしなくなります。
結果を出せない社員は、結果を出すプロセスを考えることをやめてしまいます。
数字を評価の基準にした時点で、出来る範囲の中でしか活動しなくなります。
評価シートを点数をつけるためのツールと考えるのでなく、成長度を測るものさしと考えるなら、成果目標項目以外は、定性評価にしたいものです。
定性評価とすることで、再現性のある成果を出すポイントを知ることができます。
※定性評価とは、具体的な数字や形で表せないもの
<成長確認シート>
昇給については、今年はこれくらい、という感覚で決めていることが多いので、言語化するのは難しいと考えがちです。
しかしながら、特例で一部の人に上乗せして支払ったり、毎年人件費で超過債務になっていないならば、その感覚の金額をまずは可視化してみましょう。
過去5年程度の昇給額から、だいたいの傾向がわかります。
ポイントは昇給原資の求め方を言語化することです。
上記は、一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会代表理事の和仁達也さんが、西順一郎先生の著作である『戦略会計STRACⅡ』のSTRAC表を加筆引用して、会社のお金の流れの全体像を示した「お金のブロックパズル」です。
この「お金のブロックパズルを使って、今期の予算化をしてみます。そこから適性な人件費を導きだします。
そのうえで、次の粗利高ごとの昇給額を、事業年度の最初に社員に開示しておきましょう。
事業年度の最初の段階では、どれくらいの利益が出るのかわからない場合でも、これまでの過去の支給事例から、下の図を示すことは可能ですね。
あらかじめ開示する狙いは、
1.まず会社の業績が上がって、会社の利益が増えないと、自分達の昇給額は増えないことをあらかじめ理解してもらう。
2.会社の業績がどうなったら、自分の昇給額はどれくらいになるのか。昇給額と業績の関係を理解してもらう。
3.1や2から会社の数字に興味を持ってもらう。
<会社の業績と昇給の関係性>
総合評価 | 全体粗利益高が ○円を超えた時 |
全体粗利益高が ○円を超えた時 |
全体粗利益高が ○円以下の時 |
---|---|---|---|
S | ○円アップ | ○円アップ | ○円アップ |
A | ○円アップ | ○円アップ | ○円アップ |
B | ○円アップ | ○円アップ | 昇給なし |
C | ○円アップ | ○円アップ | ○円ダウン |
D | ○円アップ | ○円アップ | ○円ダウン |
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