第961号
同一労働同一賃金の導入によって、
正社員と有期、パート社員との不合理な
待遇格差が禁止されました。
その結果、各種手当を見直すきっかけ
となり、支給の主旨や目的が明確でない
ものを廃止したり、違う目的の手当に
変更することを考えている会社から、
ご相談をいただくことがあります。
気を付けなければならないのは、
手当の見直しは”誰にとっても
不利益にならない”という設計は
難しく、
頭では理解できても、いざ自分ごと、
となると、なかなか納得いかない
こともあるものです。
「不利益変更」で揉めないように、
慎重に丁寧に、対応していくことが
必要です。
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賃金規定を会社に見せていただくと
本来の支給目的とは違った名目で
支給されている手当が少なくありません。
手当の整理をしたいけれど、不利益変更
に該当するのではないかと考えると、
なかなか決断できないとうかがいます。
この不利益変更とはどういうことを言う
のか、というと
労働契約法8条では
「労働者及び使用者は、その合意により、
労働契約の内容である労働条件を変更することができる」
と規定されています。
そこから言えるのは、
労働者の同意なく、使用者が賃金等の
労働条件を一方的に切り下げるのは無効
ということが、大前提になっていると
考える必要があります。
実際に、従業員から、
手当が減少したことは不合理であり
無効。と主張して、
差額等の支払いを求める裁判例も
あります。
人件費を下げたいという考えからだけ
の手当の見直しだけでなく、
会社としても、なかなか求人が
難しいなかで、
女性や若者など、あらたな人材の確保や
定着のために、
昔からの精皆勤手当を、保育手当
だったり、住宅補助手当にすることで、
求人の応募者も増やしたい、と考える
気持ちもあります。
国の方針をみると、
「年収の壁・支援強化パッケージ」のなかで、
「配偶者手当」の見直しを提言しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001158785.pdf
夫の会社の配偶者手当をもらうため、
他社で働いている妻が、手当受取りの
収入基準を超えないように働き控える
という状況をなくすために、
総額は変えずに、配偶者手当を縮小or廃止して
あらたに子供手当に変更したり、基本給に上乗せ
して増額するという事例を
『賃金制度の見直し」という
”制度変更”のなかの手順のひとつ
として紹介しています。
今の手当は見直したほうがよいと
わかっていても、どうやって
従業員の反発や法的リスクを軽減
するか、が課題です。
従業員の同意なく一方的に手当を
廃止するというのは、一番避けたい
ところですから
見直しの影響をうける従業員に
丁寧な説明を行うことは必須です。
納得していただき、できれば、
全員の同意をもらいたいところ
です。
法的リスクの軽減としては
これまでの裁判で手当の廃止が
不利益変更でなく合理的と判断
された事例(参考:山口地裁R5.5.24判決)から、
裁判での着眼点をみてみると
・手当変更の目的が合理的理由かどうか
・不利益の“程度”で判断
総賃金原資における減額率がどの程度か
手当が減少する人数は何人で、どれくらいの減額なのか
減額が一番高い従業員の減額率はどの程度か
・手当を廃止や縮小することに合理性があるか
・新たに付与する手当に合理性があるか、目的に沿っているか
・激変緩和措置の設定(少なくとも1年くらいか)
これらのことを手当の改廃時には検討
してから行う必要があります。
そして、賃金減額、コスト削減等が
目的ではないのであれば、
個々の従業員については不利益に
なる方が出るとしても、
人件費総額がほぼ変わらないように
(下がらないように)設計することが、
法的リスクの回避の視点からも、
従業員のモチベーション維持や
信頼を失わないためにも大切です。
お読みいただきありがとうございました。
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